五感が覚醒するタップ
「タップダンス」といえば、キラキラのブロードウェイ・ミュージカル?スマイル全開のショーダンス?熊谷のタップは、その対極かもしれない。それは虚飾を捨てた、誠実な魂の踊りだから。
熊谷は仙台に生まれ、タップに魅せられ10代でNYに渡り研鑽を積んだ。少年を突き動かした憧憬は、タップの聖地でこのダンスの起源への敬意に変容する。感情の表現も打楽器を奏でる喜びも禁じられた黒人奴隷が苦しみの末に産んだダンスを、日本生まれの自分はどう踊るのか?努力を重ね、超人的な技術の高みに達し、日本人で初めてタップ界の栄誉あるフローバート賞(2014)、NYダンス界の権威あるベッシー賞・最優秀パフォーマー賞(2016)を受賞。世界的タップダンサーとなっても、熊谷はタップの歴史と不可分なジャズクラブの生演奏で踊り、いま・ここで生まれる独自の表現の追求を続けている。
規定の振付をトレースしない熊谷のダンスは、命の音楽であり、詩だ。都市のざわめき、微かな風の流れ、ふと訪れる沈黙―自在な爪先と踵が生むライブの音色、リズムの豊かさに耳を澄ませて欲しい。今回は、大都市の洗練を体現するグループ、LITTLE CREATURESの青柳拓次が音楽監督として参加、富山ゆかりの弦楽四重奏との共演にも期待が高まる。
暗闇に光を、沈黙する世界に魂が共鳴するタップを―全感覚が鮮やかに蘇り、研ぎ澄まされる至福の時間を、あなたも。
岡見さえ(舞踊評論家)
Massege ※仙台公演に向けて書かれたものから抜粋
VISION OF LIFE.
僕が日常の中で感じているタップのビジョンとは、根本は常に変わらず、先人たちの残してきたルーツを大切にし、伝えていくことですが、また同時に今世界で起きているさまざまな問題、人種問題や暴力の問題、そして震災を経ての東北の方々が抱えている問題について少しでも考え、何かしら行動を起こしていくことです。それはすべてが、タップダンスが差別の歴史と共に歩んできた苦難の道と重なるものがあるからです。
「マスター」と呼ばれるタップダンサーたちが自分たちの文化を守り自分のアイデンティティーのために踊り続けてきたビジョンを、自分の歩んできた道や背景を通してどう伝えられるだろうか。NYでの日常の中で現在さまざまなことに葛藤しながらタップを踏み続けている『今』を、東北の今の現状と未来に向けてということを重ねて、『音』と『リズム』のエネルギーとして伝えたいです。
熊谷和徳
自分の力がみなぎってくる
いつもKAZさんのタップを体感すると、世界屈指のタップに驚愕するのは勿論のこと、同時に自分の力がみなぎってくるのも感じる。それは僕だけではなくて、どこの公演会場でも客席にエネルギーが満ちてくるような感覚を受ける。きっとKAZさんの故郷仙台でも、素晴らしい体験が皆さんを待っているだろう。
青柳拓次