AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山3rd stage『ニューマドンナ』

公演は無事に終了しました。ご来場いただいた皆様、ご支援いただいた皆様、誠にありがとうございました。劇評をご紹介します。是非、ご覧ください。

REVIEWS

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

自分と無関係の誰かなど、ひとりもいないREAD MORE

熊井玲(ステージナタリー編集長)

満を持して実現した、タニノクロウ×オール富山の新作「ニューマドンナ」READ MORE

久保陽子(富山高等専門学校准教授)

疲弊するマドンナたちの浄化と再生READ MORE

PHOTO REPORT

公募スタッフが3ヶ月以上かけて製作した緻密なセット。小さな町の歓楽街にあるスナック「マドンナ」は女性客が多く、毎日常連客で賑わっている。

細部までこだわったユカの汚部屋。散乱する衣装やウィッグの多くは、市民の方から提供していただいた。

時間をかけて丁寧に出汁をとっておでんを仕込む桃子。

「マドンナ」に並んだボトルは、実際に富山のスナックから頂いたもの。

「マドンナ」チーママの琴音。

ゲーマーのユカ。乱暴な言葉でアクションシューティングゲームを配信。

コスプレ配信で、シーフードヌードルに一味唐辛子をたっぷり入れて食べるユカ。

VTuberのユカ。優しく柔和な声色で、語りかける。

桃子ひとりの「マドンナ」に何気なく入ったユカ。そして…。

公募スタッフのこだわり。観客からは見えない路地裏もリアルに再現された。

公演概要

待望の新作!演劇界の奇才タニノクロウが描く「オール富山」第3弾!
現在を生きる女性たちの、世代を超えた群像劇

劇作家・演出家のタニノクロウが故郷の富山に滞在し、市民とともに演劇作品をつくりあげる「オール富山」プロジェクト。
これまで、第1弾「ダークマスター」(2019年)、第2弾「笑顔の砦」(2020年)と、タニノの代表作を富山版としてリメイクしてきた。
第3弾では、いよいよ待望の新作が決定!自身にとって初となる「女性たちの群像劇」を書き下ろした。
2つの空間で生きる女性たちの姿から浮かび上がる、現代社会の孤独や葛藤。
時代を鋭く捉えるタニノが、力強く生きる人々の姿を鮮やかに描き出す!
経験不問の公募スタッフが3ヶ月半をかけてつくりあげた緻密な舞台美術にもご注目を!

稽古場の様子、舞台美術の製作状況を随時発信中!

富山在住、人気コスプレーヤー‘’ 87かぼちゃ‘’が見た「ニューマドンナ」

撮影・編集:87かぼちゃ(コスプレアドバイザー)

オーバード・ホール 中ホール開館記念
AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山3rd stage

『ニューマドンナ』

作・演出:タニノクロウ
出演:島田桃依、坂井初音、瀬戸ゆりか
日向みさき、松本愛、橋本瑞穂、広浜巳央、ニシムラヤスコ、金澤一彦
西島秀樹、中尾槙一(ダブルキャスト)、阿閉三興(ダブルキャスト)
声の出演:犬神小次郎、西島秀樹

開催日時 2024年1月25日(木)19:00◇
2024年1月26日(金)19:00★
2024年1月27日(土)13:00◇ / 18:00★
2024年1月28日(日)13:00★
ダブルキャスト ★中尾槙一 ◇阿閉三興  ※開場は開演の30分前
会場 オーバード・ホール 中ホール (富山県富山市牛島町9-17)
チケット 好評発売中! 全席指定・税込  一般:4,000円  U-25:2,500円
※未就学児入場不可
※U-25:鑑賞時25歳以下が対象。公演当日の空席よりお席をご用意します。開演の1時間前よりU-25受付にて鑑賞者ご本人の身分証明書をご提示の上、座席指定券とお引き換えください。
※車椅子席は事前予約が必要です。ご希望の方は事前に車椅子チケットをご購入ください。
※U-25 および車椅子チケットはアスネットカウンターのみ取り扱います。
プレイガイド アスネットカウンター TEL.076-445-5511 営業時間10:00~18:00 定休日/月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始
アスネットオンラインチケット
チケットぴあ(Pコード:522-312)
ローソンチケット(Lコード:55912)
主催・お問合せ (公財)富山市民文化事業団 TEL.076-445-5610(平日8:30〜17:15)

『ニューマドンナ』あらすじ

小さな町の歓楽街にあるスナック「マドンナ」は、ママの桃子とチーママの琴音を慕って常連客で賑わう。
一方、その街の片隅にあるアパートでは、ライブ配信サービスで生きる女性ユカが暮らしている。
二つの異なる空間から描き出す、現代を生きる女性たちの物語。
繰り返される毎日は永遠なのか、それとも…。

舞台美術プラン 稲田美智子

タニノクロウ コメント

登場人物に女性が多いけれど、女性を描いたわけではありません。
人が何かを隠したり、逆に何かを曝け出して生きる様を描きたいと思いました。
意図的にそうしたり、意図せずこぼれ落ちたり、誰かにそうされたりして。
これは恥じらいながらも前向きに生きる人たちの物語です。

様々なジャンルでご活躍の皆さまから応援メッセージをいただきました。

キャスト・スタッフ

作・演出

元精神科医という異色のキャリアを持ち、劇作家・演出家として唯一無二の存在感を放つタニノクロウ。観客の潜在意識に訴え、後々まで尾を引くような鑑賞体験は他に類を見ない。主宰する「庭劇団ペニノ」では全作品の脚本と演出を手掛け、国内外の主要演劇祭に多数招聘されている。2021年よりフランス ジュヌビリエ劇場のアソシエイト・アーティストを務め世界的な評価も高いタニノが、「オール富山」では富山の人と共に地域を巻き込んだ創作を展開する。

撮影:藤田亜弓

タニノクロウ

1976年富山県出身。庭劇団ペニノの主宰、座付き劇作・演出家。セゾン文化財団シニアフェロー(2015年まで)。2000年医学部在学中に庭劇団ペニノを旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を手掛ける。ヨーロッパを中心に、国内外の主要な演劇祭に多数招聘。2016年「地獄谷温泉 無明ノ宿」にて第60回岸田國士戯曲賞受賞。2016年北日本新聞芸術選奨受賞、第71回文化庁芸術祭優秀賞受賞。2018年富山ひまわり賞、2019年第36回とやま賞文化・芸術部門受賞。2021年よりフランス ジュヌビリエ劇場「アソシエイト・アーティスト」、2022年7月より富山市政策参与に就任。

キャスト

舞台や映像で幅広く活躍する「島田桃依」、タニノ作品に数多く出演する「坂井初音」、富山出身で第1弾にも出演した「瀬戸ゆりか」と、タニノが信頼する3名のメインキャストが顔をそろえた。
加えてオーディションでは個性あふれる俳優たちが決定。富山で活躍する俳優陣に加え、アイドル、モデル、舞踊家、舞台未経験者まで、「オール富山」らしさ溢れる個性的なキャストにも注目!

スタッフ

作・演出 タニノクロウ
美術 稲田美智子
照明 亀澤仁美(オーバード・ホール)
音響 曽根朗(オーバード・ホール)
映像 Digital Atelier 夏灯工房、曽根 朗(オーバード・ホール)
演出助手 柿本弘一、木本千晴
演出部 浦田貴子
舞台監督 北野靖彦(オーバード・ホール)
美術製作指導 鈴木太朗、三井優子
美術製作リーダー 内山勇
美術製作 「ニューマドンナ」美術製作スタッフ
安宅陽果・荒木悠那・池田育代・太田みよ子・大辻󠄀典子・大野航・岡林瑞穂・川合亜実・後藤春香・駒澤由真・児安俊重・﨑田雅俊・嶋倉由佳・新藤さちこ・鈴木尚二・谷井政夫・谷口実香・中沼喜子・中村祐美子・丹羽仁美・針山真素美・廣瀬絵美・正木清実・舛田朋美・松浦晴香・松本音乃・宮原政二・八木悠・山本薫・吉田正一・若林かつら・脇山由香
コスプレアドバイザー 87かぼちゃ
広報アートディレクション 橋本利久、山本あゆみ(Rikyu Design)
広報 石井裕太、福岡美奈子(オーバード・ホール)、森田 翠(オーバード・ホール)
制作 税光華(オーバード・ホール)、森田翠(オーバード・ホール)
票券 船本梨佐(オーバード・ホール)
プロデューサー 福岡美奈子(オーバード・ホール)
企画制作 オーバード・ホール、(公財)富山市民文化事業団

オール富山について

「タニノクロウ×オール富山」とは

「タニノクロウ×オール富山」(以下、「オール富山」)とは、劇作家・演出家のタニノクロウが故郷の富山に単身で滞在し、経験不問の一般公募で集まった市民と共に演劇作品をつくりあげるプロジェクトです。企画制作を行うオーバード・ホール(富山市民文化事業団)は、劇場や演劇に普段接点のない人を含むさまざまな市民や地域と“つながる”ことをミッションに掲げており、その象徴的なプロジェクトとして、2019年に第1弾を上演し、好評を博しました。「オール富山」企画は、今回で3回目を迎えます。質の高い演劇作品を上演することはもちろんのこと、製作の過程で、富山に暮らす多様な立場のひとや企業・団体とつながり、100年先の富山の未来を見据えて、様々な価値創造に尽力しています。
コロナ禍での制限が緩和された今回、さらに地域に劇場を開き、新たな取り組みを展開していきます。

プロジェクト最大の特徴は、素人の市民がつくりあげる緻密な舞台美術

本プロジェクトの大きな特徴とも言えるのが、公募スタッフによる舞台美術製作。素人がつくりあげたとは思えない精巧な舞台美術は、第1弾・第2弾ともに観客や演劇関係者を大いに驚かせました。第3弾では、現役高校生から70代まで年齢も職業も異なる35名の美術スタッフが集まりました。演劇ファンだけではなく観劇経験ゼロの参加者も多く、舞台人を目指しているから/DIYが好きだから/新しい友達が欲しいから/ただ何となく…と動機も様々。バックグラウンドも定年退職者、経営者、フリーター、専業主婦、画家、高校・大学生と多様で、同じ富山に暮らしていても決して交わらないだろう人と人が出会い交流し、お互いできること/できないことを補い合い・生かし合いながら、ともに約3カ月半で完成を目指しています。
製作は主に土日祝日に行われ、自由参加を前提として、10月からコツコツ製作が続いています。今回は、これまで2度「オール富山」の製作経験がある市民スタッフが初めてリーダーとなり、美術家・稲田美智子によるリアルなセットを立ち上げます。

第1弾『ダークマスター 2019TOYAMA』

第2弾『笑顔の砦'20帰郷』

美術製作中

美術製作中

第1弾・第2弾での成果

作品の上演のみならず、美術製作や作品づくりの過程で、さまざまな人や企業・団体とのつながりをつくってきました。特筆したいのは、過去作に出演した市民キャストと美術スタッフの2名が、第3弾では「制作者」となったこと。彼女たちは本プロジェクト参加後、それまで勤めていた会社を退職し、オーバード・ホールの職員(1名は7年振りの正規職員採用)となり、現在は本作の制作スタッフとして奮闘しています。また、第2弾で初めて演者を務めた市民キャストが公演終了後には地元劇団に入団したり、美術スタッフを務めた方は演者として舞台に立つようにもなりました。その他、思いもよらない新たなクリエイションや事業構想など成果が次々と創発されています。
「オール富山」の参加者や関係者一人ひとりの人生が変わっていくように、創造的な出会いとつながりに刺激を受けながら育まれている「オール富山」、そして新作『ニューマドンナ』に是非ご注目ください。

これまでの軌跡

本プロジェクトが産声を上げたのは2019年。第1弾では『ダークマスター』、第2弾では『笑顔の砦』といずれもタニノの代表作を富山版としてリメイク。富山弁の台詞、見覚えのある風景が立ち上がり「自分たちの街の物語」として記憶に残るものとなりました。新作並びに世界初上演となる今作では世界に通じるクリエイションを目指し、富山に限定しない普遍的な作品をつくりあげます。

第1弾:2019年

第2弾:2020年

応援コメント(敬称略・五十音順)

関連企画

人と地域との「つながり」をつくる関連企画

「オール富山」は、劇場や演劇が開かれた場所となることを目指して、富山で暮らす人たちや企業のみなさまと積極的につながりをつくりながら制作を進めています。今回も様々な業種とのコラボ企画を実施します。

関連企画1
飲食コラボ

富山市呉羽にある『ニューマドンナ』の稽古場・美術製作作業場から近く、キャスト・スタッフも大好きなお店とのコラボが実現!各店で販売中!公演当日には会場でも販売します。

オール富山×カンパーニュ コラボパン

『カンパーニュ』さんは、行列が絶えない人気のパン屋さん。店主ご夫婦が一緒に考案してくれたのは、「オール富山」が大切にしている“つながる”をテーマとしたコラボパン。

店主コメント

オール富山が大切にしている「つながる」をテーマにした、ちぎってシェアできるパンをつくりました。
ぜひ誰かと会話を楽しみながら味わってください。

SHOP DATA

カンパーニュ
富山市呉羽町1818-15
営業時間 7:00~19:00/定休日 日・月曜日

オール富山×野口屋 コラボ菓子

『カンパーニュ』さんとのコラボを知り、自ら手を挙げてくださった和菓子の『野口屋』さん。コシヒカリ米粉、新大正餅の餅粉、はちみつやの蜂蜜、富山産の日本酒を使用した「オール富山」素材による、「オール富山」どら焼きを開発して頂きました!皮には、ゆる~く富山県の地図が!

職人さんコメント

富山県産の米粉やもち粉などを使った、富山ならではの「どら焼き」を作りました。一つひとつ丁寧に焼き上げるふわもちな生地が特徴です。

SHOP DATA

野口屋
富山市呉羽姫本町1812
営業時間 8:00~18:00/定休日 火曜日

関連企画2
『ニューマドンナ』公式オフ会開催!
オール富山×富山ステーションシティ

終演後に、軽食を食べながら感想をお喋りする楽しみ方をご提案します。オフ会オープニングでは、タニノさんによるトークを予定しています。

日時 1月27日(土)20:30 開始
場所 TEJIKAEN 富山駅ナカ店(富山市明輪街1-90とやマルシェのれん横丁内)
参加費 3,000円(税込み)
定員 限定30名様
申込方法 発売中!アスネットカウンター、アスネットオンラインチケットより「オフ会チケット」をお買い求めください
※「オフ会チケット」のみでは、「ニューマドンナ」の公演はご観劇いただけませんのでご注意ください。

関連企画3
美術製作作業場の公開(見学説明会)

今年7月に、市民にとってちょうど良い規模の劇場としてオーバード・ホールの「中ホール」を新たに開館しました。一方で、今回、廃園となった幼稚園舎(旧呉羽幼稚園)を、美術製作の作業場として活用させていただいています。そして、普段劇場や演劇と接点のない方々ともつながりたいという思いから、園舎のある町内の方はじめ地域の方々や商店・地元企業の方々に向け、製作現場の見学説明会を随時行っています。作業場には第1弾・第2弾の展示室もつくり、自由に見学していただけるほか、お手伝いしてくださる方には、釘打ちや塗装などをお願いしています。

関連企画4
オール富山×富山経済同友会

「地域における公共文化施設の役割」を富山県内企業経営者の視点で考えるプログラム。富山経済同友会では、地域貢献のひとつとして、企業が富山市の文化活動を支援する提言書をまとめ、実践することを目指しています。初年度となる2023年度は「タニノクロウ×オール富山」プロジェクトに参加して市民参加者とともに様々な文化活動を経験し、演出家やファシリテーターと意見交換を行います。

活動内容
第1回 8月 タニノクロウ講演「なぜ劇場が必要か?」
オーバード・ホール 中ホールバックステージ見学
第2回 12月 稽古場、美術作業場見学
経済同友会スポーツ文化委員会の皆様と意見交換会
第3回 1月 公演鑑賞 鑑賞後、意見交換

関連企画5
オール富山×支援施設「志木野苑」

支援施設の皆様に劇中に登場するスナック「マドンナ」で使用するコースターを制作していただきました。
このコースターは、「リアルマドンナ」でも使用しました。

終了しました

関連企画6
オール富山×タウザー
リアル『マドンナ』

街中にスナック「マドンナ」が出現した3日間。
『ニューマドンナ』キャスト・スタッフが皆様をお迎えしてお客様と楽しく交流しました。

日時 12月2日(土)、9日(土)、16日(土)各回19:00 Open
場所 Bar&Kitchen Towser(富山市総曲輪3丁目2-6)
ママ担当キャスト 2日 瀬戸ゆりか
9日 島田桃依
16日 坂井初音
桃子役

島田桃依 Momoi Shimada

俳優/青年団所属。1982年3月3日生まれ。栃木県出身。
2004年に「庭劇団ペニノ」公演で初舞台を踏む。2010年より青年団に入団、劇団員として活動中。また、舞台のみならず幅広く活動。近年の主な出演作に、TV「あいつが上手で下手が僕で」、「シガテラ」、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(23)、映画、「鈴木家の嘘」(18)、「エキストロ」(19)、「犬部!」(21)、「MONDAYS」、「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」(23) 、舞台『蛸入道 忘却ノ儀』(18)、『石橋けいのあたしに触らないで!』(20)、『虹む街』、『コントロールオフィサー』(21)、『地上の骨』(23)など。

琴音役

坂井初音 Hatsune Sakai

俳優。1991年生まれ。兵庫県出身。近畿大学 文芸学部芸術学科 舞台芸術専攻 卒業。
2013年タニノが大阪で開催したWSの参加をきっかけに俳優活動を始める。以降、庭劇団ぺ二ノ『ダークマスター』『笑顔の砦』、タニノクロウ秘密倶楽部『MARZO VR』に出演。他維新派や下鴨車窓などの劇団にも参加。関西を中心に活動中。猫と大仏鑑賞が好き。

ユカ役

瀬戸ゆりか Yurika Seto

俳優/青年団所属
1993年6月14日生。富山県出身。劇団俳優座演劇研究所を退所後、東京の小劇場を中心に活動。 2021年平田オリザ率いる青年団に入団。 近年の出演作は、青年団『S高原から』、 2022年豊岡演劇祭/利賀村SCOTサマーシーズン『新ハムレット』等。 今回のオール富山企画には2019年の第一弾『ダークマスター』出演以来2度目の参加となる。

愛果役

日向みさき Misaki Hinata

富山県出身。アイドル。『あなたの心のお薬になれたらいいなぁ』というキャッチコピーの元、歌で人々の心を癒すためライブ活動を行う。プロデュース、作詞、制作等全て自身で行い北陸を中心に活動中。

みゆ役

松本愛 Ai Matsumoto

魚津市出身。株式会社アドバンス社所属のモデル・タレント・役者。北陸を中心にテレビ番組のレギュラー出演をはじめCM・広告・ショーのモデルやドラマ出演などマルチに活動中。

久美子役

橋本瑞穂 Mizuho Matsumoto

富山市在住。4歳より民謡民舞を習い全国大会にも出場。現在は主に、企画演劇集団「び~めんぷろじぇくと」の公演に参加。中ホール開館記念「come come THEATER!」にも出演。

茜役

広浜巳央 Miou Hirohama

富山市出身。魚津市在住。初舞台。この企画に参加できるというチャンスが訪れ、初めは迷いもあったが、娘の後押しもあり参加を決意。

瀧子役

ニシムラヤスコ Yasuko Nishimura

入善町出身。進学を期に東京へ20年、モダンダンスの道へ進む。1991年に入善に戻り、スタジオ330を開設。2013年に大人舞踊集団ダンスFa.レゾナンス結成。ほとり座、市民プラザにてライヴを開催。

茂役

金澤一彦 Kazuhiko Kanazawa

富山市在住。2013年より所属の『劇団 血パンダ』を演劇活動の中心とし、年2本のペースでオリジナル作品に参加。その他ラジオドラマや映像作品に多数出演。

ユカの彼氏1役・波平

西島秀樹 Hideki Nishijima

富山市出身。金沢市の劇団「表現集団tone!tone!tone!」に所属。近年では「12人の怒れる男」(2021年)、「ら抜きの殺意」(2021年)に出演。

ユカの彼氏2役

中尾槙一(ダブルキャスト) Shinichi Nakao

富山市出身。オール富山第2弾「笑顔の砦'20帰郷」にて田中勇希役として出演。他、地元富山の劇団に客演にて多数出演。

ユカの彼氏2役

阿閉三興(ダブルキャスト) Mitsuoki Atoji

富山市出身、演劇集団 富山舞台所属。八尾町を中心に朗読劇を毎月第二土曜日に開催。
その他、舞台を年に二回。近年は学校での公演も行う。

ゆず丸

犬神小次郎 Kojiro Inugami

兵庫県出身。富山市在住。2022年より速星を拠点とする「劇団みろく座」に所属。オール富山第2弾「笑顔の砦」には美術スタッフとして参加。

「タニノクロウ×オール富山」(以下、「オール富山」)とは、劇作家・演出家のタニノクロウが故郷の富山に単身で滞在し、経験不問の一般公募で集まった市民と共に演劇作品をつくりあげるプロジェクトです。企画制作を行うオーバード・ホール(富山市民文化事業団)は、劇場や演劇に普段接点のない人を含むさまざまな市民や地域と“つながる”ことをミッションに掲げており、その象徴的なプロジェクトとして、2019年に第1弾を上演し、好評を博しました。「オール富山」企画は、今回で3回目を迎えます。質の高い演劇作品を上演することはもちろんのこと、製作の過程で、富山に暮らす多様な立場のひとや企業・団体とつながり、100年先の富山の未来を見据えて、様々な価値創造に尽力しています。 コロナ禍での制限が緩和された今回、さらに地域に劇場を開き、新たな取り組みを展開していきます。

山内マリコ(作家)

劇場や創作を愛する人々を独自の視点で切り開くタニノ氏へはいつも期待しかありません。富山市の皆さんとの舞台美術の共同製作という素晴らしく開けたプロジェクト。街と演劇との豊かな交流に痺れまくっています。思いの詰まった美術と上演をぜひ劇場で!

長塚圭史(KAAT神奈川芸術劇場芸術監督)

鬼才タニノクロウさんは、実はきわめて郷土愛の強い人です。
そのタニノさんが一から創る市民参加型演劇は、「市民参加」の概念を軽やかに超えていくものになるだろうと期待しています。

平田オリザ(劇作家・演出家)

今の日本で、最も遠くまで行ける、最も深くまで潜れるアーティストがタニノクロウ氏に違いありません。しかも彼は、「このメンバーでもこのくらいのものはつくれる」という創作は一切せず、「このメンバーでしかこんなものはつくれないぞ」という作品だけを生み出す人です。いやもはや作品と呼ぶより生き物と呼ぶべきか?この唯一無二の生き物との時間を、ともに楽しみましょう。

宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)

僕は未だタニノクロウ氏の世界観から出られないでいるのかもしれない。
出会いは何十年も前。タニノ氏とはイプセンやチェーホフの作品でご一緒した。
演技中僕が話す言葉は異国の亡くなった偉人の言葉なのだが、足を踏み入れている場所や見えている景色は正にタニノワールドだ。
僕にとっては、そこは、とても居心地の良い場所だ。

手塚とおる(俳優)

タニノクロウは、いま最も注目すべき日本人アーティストの一人だ。彼のアプローチはとてもユニークで、提案がある度に驚かされている。タニノは人の予測不可能な部分や人と物・場所との関係性を洞察する力を持っており、その細部まで創り込まれた世界はしばしば奇妙でありながらも日常的でもあり、しかし途方もない深さがある。彼の作品は、私たちを想像もできない特別なところへと誘ってくれる。そして、どんな理論的な説明よりもありのままの人間の姿を描き出している」

Daniel Jeanneteau (フランス・ジュヌビリエ劇場 芸術監督)

知り合って十年余、タニノ君の作品に幾たび驚かされたことか。綴られる物語、舞台の仕掛け、役者選び---どれもが普通じゃない。そしてどれもが念入りだ。彼のファンにならずにいる方がよほど難しい。『ニューマドンナ』ではどんな風に驚かせてくれるのか。待ち遠しい♡

塩谷陽子 JAPAN SOCIETY芸術監督

香港で上演された、タニノの「Mother」と「笑顔の砦」は、多くの人の心を打つものでした。作品のコンセプト・演出・舞台美術は、まるで強烈な絵画のように出演者や観客の深層心理に、語り掛けるのです。

親愛なるクロさん
今度の劇場公演は、観客にとって新たな発見と驚きになると思います。ご多幸をお祈り申し上げます。

グレース・ラング(香港芸術祭プログラムディレクター)

いったい誰のためになにをやっているのか
なんのためにそれをやっているのか、
きっとわれわれが理解しようとしても無駄なんだ。
理解しようとすると墓穴を掘ります。危険だ。
だからこそ、ユニーク極まりない。
答えがないことを知っているからこそ、谷野九郎くんは最高だ。

戌井昭人(劇作家・俳優・小説家)

タニノクロウさんのやることはいつもこちらの想像を軽々と超えてきます。
彼を育てた富山の地で富山の人たちとの合流からなにが生まれ出てくるのか。
これは、こちらも富山まみれになって体験しなければと思っています。

中井美穂(フリーアナウンサー)

劇場さん、市民の皆さんが中心になり様々な人達が参加する「タニノクロウ×オール富山」。
もうこの企画は素晴らし過ぎる!好き過ぎる!
演劇を通して人と人が出会い繋がる
ワクワクしかない
可能性しかない
懐の深いタニノさんが様々な人達と一緒に創る作品
僕の中では『確実にオーバードさんに観に行く』1択です!

緒方晋(俳優)

妥協しない創造のプロセスを地域に開き、街と公共ホールを結び、人の新たな関係性を生む。アルプスの向こう側、タニノクロウ×オール富山の活動に、地域での創造活動に携わる者として深く共感しています。次は満を持してのMade in Toyamaの新作、とても楽しみです。

野村政之(信州アーツカウンシル ゼネラルコーディネーター)

「オール富山」は今までもすごかった。そして次作はタニノ氏の新作で、という信じられない取り組みになるという。聞いただけで、まるで自分が作り手になったように緊張してしまう。
初演までの時間、積み上げられていくこの緊張が「オール富山」の醍醐味。完成が待ち遠しい!

束芋(アーティスト)

タニノクロウにはずっと驚かせられている。マンションを改造して1席ずつパーティションで区切った自前の劇場を設えたり、観客ひとりひとりにイヤホンを配布して舞台上の俳優と同じ指令を聴く体験をさせたり、高さ数十センチのセットの中で俳優に寝たまま演技をさせたり、新宿の空き地に穴を掘って水を貯めて会場にし、上から見るとその穴が男性器の形をしている仕掛けだったり──。その中で私が最も驚いたのは、2019年にオーバード・ホールでの『ダークマスター』で、美術セットの創作を公募した富山市民に委ねたことだった。セットも小道具も自らの手で脳内のイメージと寸分違わずに再現することにこだわったかつてのタニノからは、とても考えられない変化だったからだ。結果、それは作品の輪郭を溶かし、いきいきと広がる輪にした。こだわりが信頼に動いたきっかけに、彼が生まれ育った富山の風土、人、未来への思いが影響を及ぼしたことは間違いない。タニノクロウ✕オール富山の第3弾は、待望の新作だという。それを観に、私はまたいそいそと富山に向かうだろう。

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

タニノさんは人々の生活に密接に関わるクリエイターだと思います。地域住民と一緒に舞台をつくりあげ、漁師の物語をつくるとなると一緒に生活して漁に出るなど、彼の作品は常に思いやりに満ちています。超現実的で色彩も控えめな舞台美術が、人間の立体的な側面をより際立たせるようです。彼の繊細な芸術は普遍性を持ち、現代の演劇美学の中で独自の存在感を放っています。そのため、国際的なアートフェスティバルに頻繁に招待されています。

王嘉明(WANG Chia-ming)(劇作家・演出家)

20年12月、オール富山第2弾「笑顔の砦」を東京から2泊3日で観に行きました。新幹線で2時間、駅の回転寿司、日本海の闇、夕日、レンタカーで温泉、立山連峰、サバサンド、を経ての2度の観劇、、富山、シブい、サイコー!「ニューマドンナ」も行きます!

金子清文(俳優)

自分と無関係の誰かなど、ひとりもいない

なんと温かくて痛く、寂しくて美しい物語なのだろうか。「人生は近くで見ると悲劇だが、引きで見れば喜劇である」という有名なチャップリンの言葉があるが、オール富山シリーズ第3弾の『ニューマドンナ』は、前2作よりさらにこまやかに、かつ意欲的に、人の営みの二面性を映し取ることに迫った。作・演出のタニノクロウはおそらく、人間が複数集まるとその傾向は濃くなると考えていて、それが凝縮する場所として今回、昭和テイストたっぷりの小さなスナックと、オンライン上のゲーム中継のコミュニティを選んだのだろう。タイトルこそスナックの店名に寄せているが、一見正反対に思える2つの場所を並行して見せることで、その試みは見事に成功した。

富山に暮らす人で意欲さえあれば、たとえ未経験でも、俳優、あるいは美術スタッフとして創作に関わることが出来るオール富山シリーズは、全国に数ある市民劇の中でも、演劇作品としてのクオリティでかなり高いレベルにある。けれども他と大きく違うのは、その土地に暮らす人々の生活をリアルに舞台上に持ち込みながら、同時に、人間という存在と時代への眼差しが、遥か俯瞰にあることだ。

とにかく今回唸ったのは、ふたつの場所のシンクロとズラしの見せ方だった。舞台上を半分に区切ってふたつの空間を並行して見せる仕掛けは、シリーズ前作『笑顔の砦 ’20 帰郷』でも実践されたが、同作が同じアパートの隣り合う2部屋で、それぞれに暮らす人達の様子が比較しやすかったのに対し、今作は、近所ではあるが離れた場所で間取りも全く違う。それなのに『ニューマドンナ』は、最初は並行にあった2本の線が、近付き、離れ、近付き過ぎてすれ違い、やがてゆっくりと重なっていく様子が、美術、俳優の動線、せりふ、照明などあらゆる手を使って、けれども密やかに遂行されていた。

向かって左はカラオケ付きの小さなスナック、右は、いわゆる“汚部屋(おべや)”と呼ばれるようなアパートの一室。スナックは飲食店でアパートは住宅だが、程なく、どちらも仕事と生活が限りなく重なった空間であることが知らされる。スナックには常連と思しき女性が酔って寝てしまい、そのまま朝を迎えたことがすぐにわかるし、右のアパートで暮らすユカは外に出ることなく、インターネットで戦闘ゲームの中継や地下アイドル活動をしてその収益で生活していると知らされる。目立つ場所に大きなモニターが設置されているのは共通しているが、スナックのそれには従業員や客から慕われる桃子ママが楽しそうにカラオケを歌う姿が映されるのに対し、アパートのそれには、殺伐とした風景のCGに、あからさまな上下関係が存在する会話が被される。それでも生理現象は同じで、トイレに行くタイミングは一緒だったりする。
また同じ食事でも、ユカはカップ麺に大量の香辛料を入れたもので済ませるが、スナックではママがていねいに仕込んだおでんが名物で、従業員の琴音もそれを楽しみにしている。けれどもユカも琴音もグミが大好きだ。

こんなふうに、ふたつの場所の「やっぱり違う」と「やっぱり同じ」が繰り返されるうち、小さな奇跡が起きる。ユカが「マドンナ」に来店するのだ。それは大きな奇跡にはつながらないし、そのあとユカの身に起きた事件を考えれば、奇跡と呼んでいいかもわからない。むしろ彼女が「マドンナ」に行かなければ良かったと考える向きもあるかもしれない。けれどそのあと常連に囲まれて桃子ママが恥ずかしそうに歌ったUAの『プライベートサーファー』の歌詞は、ほとんど全てを失ってしまったユカに、ママが自覚もないまま届けようとした応援であり、いつかきっと何かの形で届くはずだという確信を、多くの観客はその頃にはもう抱いていたはずだ。なぜなら前述のように、ふたつの場所が、そこにいる人同士が無関係ではないことを、視覚で、聴覚で、イメージで、ずっと伝えられてきたから。

蛇足を承知で書き加えるなら、タニノの狙いはこの上演だけでは完結しておらず、この舞台を観た人の無意識に、自分と無関係の誰かなどひとりもいないということを植え付けることではないかと考える。この作品で初めて演技をした人、初めてカナヅチを持って美術セットをつくった人が、もう演劇とは無関係ではなくなったように。何しろこの作品に仕込まれた時間は長く、範囲も広い。何気なく聞かれたおでんの出汁の引き方に対して、途中からママが何かに取り憑かれたように琴音に「焦がさないでね」「ラップしてね」と言い聞かせる様子から、隠れたテーマが“継承”であることは明らかで、しかも琴音は関西弁を喋っており、この土地の生まれではないことが伺える。市民劇でありながら違う土地の人物に継承する点に違和感を感じる人もいるかもしれないが、他の土地からやって来た人が心安らかに暮らせる場所を見つけられたなら、そここそが理想郷のはずだ。そしてこの土地を離れたユカが、いつか別の場所で桃子のような人に出会い、全く違う気持ちでグミを食べることが叶ったなら、その時、彼女の悲劇は喜劇に変わるだろう。

徳永京子(演劇ジャーナリスト)

満を持して実現した、タニノクロウ×オール富山の新作「ニューマドンナ」

緞帳が開きまず目に飛び込んでくるのは、舞台下手側に広がる、少し懐かしい感じのスナックのフロア。カウンターの奥では、スナック「マドンナ」のママ・桃子が鍋の様子を見ながら調理中で、そこへ店員の琴音が買い物袋を下げて帰ってくる。ママと女性客たちの屈託ない様子から、彼女たちにとってはそれがごく日常的な風景であることが伝わってきた。続けて動き出すのは、舞台上手に広がる、散らかった様子のアパートの一室。ヘッドセットをしてパソコンに向かったユカは、ぶっきらぼうな言葉遣いで、仲間とクライムアクションゲームの配信をスタートさせた。ユカが大きく目を見開くと、白い肌にカラコンがよく映え、異世界感が増した。その後、2つの空間は同時進行で時を刻み始める。まるで接点がなさそうな2つの部屋の人たちは、ある日、ユカが偶然店に立ち入ったことで、ひとときの交わりを得る。

「人が死ぬとか、愛が生まれるとか、そういうことは恥ずかしくて書けないんだけど、でもドラマみたいなものを動かそうとしたときにグッとくること……例えばたまたま風が吹いたからとか、寒いから人同士が近くなったとか、そういったことでドラマ性を感じてもらいたいなと思っていて」とは、『ニューマドンナ』上演前のインタビューでの、タニノクロウの発言だ。その言葉通り、この物語では大きな事件は起きない。ただ彼女たちは一瞬の邂逅により、変わり映えしない毎日の中でも時間は着実に積み重なっていること、それにより自分たちの心身に少しずつ変化が起きていることを知り、ある決断をする──そんな人生の一線を超える瞬間の煌めきが、あまりにさりげなく潔く描かれるラストに、愛おしさと清々しさを感じた。

本作はタニノクロウ×オール富山によるプロジェクト第3弾で、過去2作とは違い、富山県在住または出身のキャスト・スタッフから成る、オール富山のための書き下ろしだった。レパートリー作品も多いタニノだが、新作に取り組む場合は作品の核が定まるまで慎重にリサーチを続ける印象がある。振り返るとタニノは2019年に上演された第1弾『ダークマスター 2019 TOYAMA』のインタビュー時に、「富山出身ではあるけれど、現在の富山についてもっと知りたいから、地元の人とたくさんコミュニケーションを取るようにしている」と話していた。その後、2020年6月コロナ禍で上演された『Meditation -The day before daylight-』、2020年12月に上演されたオール富山第2弾『笑顔の砦 ’20帰郷』と、5年に渡りオーバード・ホールや富山との関係を深め、2024年、満を持して新作『ニューマドンナ』が誕生した。

一方、この5年間“オール富山”側にも変化があった。回を重ねるごとにキャスト・スタッフ募集への申込が増えただけでなく、経験者が公演後も劇場や作品に関わってくれるようになった。例えば、本プロジェクトでは(タニノ作品に不可欠な、あの精緻な!)舞台美術製作も市民スタッフが行うことが大きな特色だが、経験値と参加者が増えることで、より質の高い製作が可能になった。また劇中で使用する小道具を提供してくれる人がいたり、富山のアーティストが『ニューマドンナ』のVTuberやコスプレアドバイザーとして参加していたりと“オール富山”の裾野はさらに広がっている。

そんなタニノ側、オール富山側、双方のタイミングが合致して『ニューマドンナ』は実現した。公演直前に起きた令和6年能登半島地震により、関係者の方々はさまざまな思いをもって舞台に臨まれたはずだが、本作のキャッチコピー「いつだって、新しくなれる。」という思いに背中を押されて劇場を後にした観客は、私だけではないはずだ。

熊井玲(ステージナタリー編集長)

疲弊するマドンナたちの浄化と再生

1.オール富山の試み

『ニューマドンナ』(作・演出タニノクロウ)はタニノクロウ×オール富山の第3弾となる作品である。富山県出身で今や世界に活動の場を広げるタニノが、地元富山の人や場所を巻き込んだ地域密接型の演劇プロジェクトである。オール富山を掲げた前2作『ダークマスター2019 TOYAMA』『笑顔の砦’20 帰郷』が、既発表作品のリクリエーションであったのに対し、今作はタニノが「オール富山」のために書き下ろした新作である。2024年1月25日(木)から28日(日)まで全5回、オーバード・ホール中ホールで上演された。

私はこの舞台を初日と27日に2度観た。否、私の観劇体験はそれ以前に始まっていた。12月の土曜日に富山市の繁華街にあるバー「タウザー」に、3回出現したプレイベント「リアル『マドンナ』」の客として既に舞台の世界に足を踏み入れていたのだ。劇中と同じ「マドンナ」の看板が店前で点灯し、客に提供されるドリンクのコースターも実際に舞台で使用されるものと同じものが使われていた。このコースターは高岡市にある支援施設「志貴野苑」で制作された。バーでは日替わりで俳優がカウンタースタッフとして働き、タニノ自身も接客をしていた。歓談の中でこれから観る作品への期待が高まった。

さらに27日の夜公演の観劇後は富山ステーションシティとのコラボ企画として「TEJIKAEN富山駅ナカ店」で開催された公式オフ会に参加した。劇中に登場したおでん(店主が台本のレシピを再現して作った。大変好評で店のメニューになることも会の最後に発表された)も登場し、より作品の魅力を味わうことになった。かねがね観劇体験を共有したいと思いながら、誰と話すこともなく一人で悶々としながら帰路についていた私にとっては、是非とも参加したい企画であり、その期待を上回る体験となった。オフ会にはタニノが来ることは予告されていたものの、基本的には観客が感想を共有する会だと想像していた。実際は、タニノをはじめキャストやスタッフ、「オール富山」の関係者やもちろん他の観客たちが一緒になって食事を囲み、その光景は舞台と客席の垣根を取り払うだけでなく、舞台の「作り手」の概念を大きく拡張するものであった。つまり「オール富山」というコンセプトを目の当たりにしたわけだが、もちろんそこには県内外を越えた交流も生まれていた。

他にもこのプロジェクトの飲食コラボとして、劇場ロビーでも販売されていた「カンパーニュ」のパンや「野口屋」のどら焼き、また美術制作の作業場(旧呉羽幼稚園)の見学説明会、富山経済同友会との意見交換なども行われた。演劇を市街へ拓いていくこの魅力あるプロジェクトについて、劇場/演劇の公共性の観点から論じるのは私の手に余るので、本作が単に劇場空間という限られた場所でのみ展開されていたわけではないことを確認するに留め、次にタニノが女性を中心に描いたという舞台についてみていきたい。

2.疲弊する二人のマドンナ

舞台上には2つの部屋がある。客席から向かって左手側にはスナック「マドンナ」。どこか懐かしい雰囲気で、ママ桃子(島田桃依)とチーママ琴音(坂井初音)の周りには常連らしき女性客が集う。右手側はごみや酒瓶が散乱した一人暮らしの汚部屋。部屋の主の女性ユカ(瀬戸ゆりか)は配信を生業としている。この2つの部屋での出来事が基本的には別々に進行し、音や仕草が時に連動し、対照性と関連性の間を行き来しながら物語は進んでいく。舞台美術は、現在の日本でここまでのクオリティの美術を手掛けられる人はそういないとタニノも太鼓判を押す美術制作公募スタッフ32名によるものである(第1弾は26名、第2弾は20名)。細部まで作り込まれた舞台美術は、作品にリアリティを与えている。

桃子とユカは、アナログとデジタル、リアルとネット、女性常連客(男性も1人いる)と男性フォロワーという違いはあるものの、人を引きつける魅力のあるマドンナだ。しかし、自分に向けられた人々の欲望を充足させるマドンナたちのリアルの身体は、途方もなくすり減っている。明るく接客する桃子は膝が悪く足を引きずっているし、ネット上でキャラクターを演じ分けるユカは、オフラインになった途端に気だるく覇気がない。物語は、そうした彼女たちの日常のオン・オフを描きながら、最終的には「いつだって新しくなれる」という作品のテーマであるところの新しい局面へと向かう。

本作は仮構されたキャラクターとリアルな身体という両者のせめぎ合いを、2人の対照性において鮮やかに描き出しているのが特徴だ。

島田が演じる桃子は、素朴で温かみがあり、ちょっとおっとりしたママである。カスタム=整形の話題が出た際には、自分はそのままでよいと言うように、ありのままの飾らない人物である。スナックの雰囲気は、その店のママのキャラクターによって形成されるというが、スナック「マドンナ」は、桃子の「人柄」や価値観が染みついた場所であり、その居心地の良さを求め客が集ってくる。

ママの「人柄」に集うといえば耳障りはいいが、現実はそんなに甘いものではない。桃子は店を整え飲食を提供し、家におけるママ=母親のような役割をこなす。それだけでなく気配り、会話の調整といった感情労働もしている。おでんの出汁を煮干しから取る手間も惜しまず、酔っぱらった客には水を出し、店に置く花をいけるのも欠かさない。

実労働として店の切り盛りと細やかな気遣い。こうしたママの「人柄」の上にスナック「マドンナ」がある。桃子は地をゆくようでいて、それは並々ならぬ努力によって作り上げられたものなのだ。桃子を一番近くで見ている琴音が、ママのことをよくわからない人だというのもそれが決して素顔でないことを看破しているからであろう。こうしてスナックに集う客たちの欲望を充足させるために働く桃子のリアルな身体は、日々消耗している。

とはいえ桃子の「人柄」がある程度は素顔の延長線上にあるように思われる一方で、ユカは自分とはかけ離れた3つのキャラクターをネット世界で軽やかに移動する。戦闘ゲームに興じる粗暴な男言葉のユカ、うる星やつらのラムに扮装したあざと可愛いユカ、おっとりとした声でしゃべる癒し系Vチューバ―のユカ。いずれのユカも瀬戸は見事に魅力的に演じ分ける。

多くは男性かと思われるフォロワーを喜ばせるために、その欲望の先にキャラクターを仮構するが―後に彼女のリアルがネットで晒された時に、風呂を覗く行為にコメントがざわつき、彼らの欲望の在処が露呈する―、ユカもまた、他者の欲望を充足させる労働に、マドンナたることに疲れている。観客が知ることになる日常のユカは、部屋は荒れ、ヒモの彼氏に搾取され、消耗した身体を引きずっている。

3つのキャラクターを演じるユカは、すっぴん、化粧、そして最終的に身体を持たないVチューバ―へと変身し、リアルの身体からはどんどん離れていく。ところが一転、物語の終盤、ユカのリアルの身体が前景化する。彼氏がユカの不在時に汚部屋のリアルを配信し、そこに住所が映り込み居場所が特定されてしまう。その瞬間から、ユカが欲望を露わにしたフォロワーによって部屋に凸され襲われるのではないかという危うい緊張感が走る。ユカ不在の部屋の中に鮮明にユカの身体性が立ち上がってくるのだ。

作り上げられたキャラクターとはうらはらに、身体はリアルでたった一つだ。そこから逃げることはできない。知らず知らずのうちに蓄積されたマドンナたちの疲労は、限界を迎えている。だらだらと続くようにみえた日常に変化をもたらすのは、ささいなきっかけである。

別々に進行していた二つの部屋の物語が、物語の後半で交わる。ユカが配信部屋を出てスナックに来店する。普段は常連で賑わう店に異質な新参者。ここでママの日常に亀裂が入る。思い切って店に入ってきたユカの勇気に触発され、桃子はいよいよママの座を明け渡そうと気持ちに踏ん切りをつけ、堰を切ったようにおでんのレシピを琴音に伝承する。そして最終場ではママの割烹着を着た琴音、つまり『ニューマドンナ』が誕生し、まもなく店は琴音の色に染まっていくだろうことが示唆される。

他方ユカは、先述のように部屋を不在にしたわずかな間に、作り上げてきたネット世界での虚像を破壊され、住所を特定され、どこにも自分の居場所を失う。本名と実年齢を公表し―誤解を恐れずにいえば、アイドルではなくマドンナであるのは、ユカはアイドルという言葉からイメージされる「若い女性」ではないからだ―、彼女の日常であるところのネット世界に中指を突き立て決別する。スナックに入ったことがユカを破滅に追い込むが、それはひたすら消耗する日常からの解放と表裏である。

3.雪がもたらすもの

このように女性の強さや変化を描く本作はもちろん普遍性に開かれたものであるが、最後に敢えてローカルな視点を取り入れてみたい。桃子が痛む足を労りながら、窓外に雪がちらつく無人のスナックで、「明日もよろしくお願いします」と言ってお辞儀をするシーンがある。膝が大丈夫であって欲しいという願いであり、自分を奮い立たせる言葉であろう。虚空へ放たれていたようにみえるこの言葉は、舞台が富山であることを考えると、私は彼女の願いの先に立山の存在が自然と想起された。富山に移り住んで知ったことだが富山の人々の意識には、何かにつけ立山が守ってくれているという広義の立山信仰がある。四季の移ろいとともに姿を変え日常の風景としてそこにある雄大な立山は、人々の心の拠り所であり暮らしと密接に結びついている。

立山から流れる四つの河川は、水や電気を供給し人々の暮らしを支えながら富山湾へと流れ込む。そして日本海で発生した水蒸気は寒気に運ばれ立山にぶつかり、雪を降らす。雪は時に災害ともなりえるが、立山のもたらす雪は恵みでもある。

そして作中においても雪は重要だ。Vチューバ―のユカは、自分の居場所を窓の外に雪が降っていて日本海側であると語る(晒された住所は富山市である)。そして雪は泡立てた石鹸に喩えられ、世界を浄化する雪のイメージが提示される。それと連動するようにスナックで歌われるのは、桃子の十八番?UAの「プライベートサーファー」で、「ねぇ誰かこの世界を全部洗って」という歌詞が重ねられていく。舞台セットの二つの部屋の窓からは、降る雪が次第に強まっていくが、それは浄化を希求する彼女たちの心と共鳴している。

だからこそ降る雪をもろともせず、ユカは傘も持たずにその世界へと飛び出していく。その日は交通がマヒするほどの大雪で、実際に琴音は雪の影響で遅れて店に着いている。雪は日常を狂わせる(初日舞台では大雪の影響でパンフレットが届かないというハプニングがあったことをタニノが舞台挨拶で披露した)。この様子であればおそらく外は一面に雪が積もっているだろう。ふと見るとスナックからこぼれる温かい灯り。今まで入ったことのないスナックにユカを導くにはそれだけで十分だったのだろう。雪は日常をマヒさせ、浄化する。そして浄化のあとには再生がある。

※富山文学の会『群峰9号』(2024年3月刊行)掲載文を一部改変した。

久保陽子(富山高等専門学校 准教授)

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