企画振り返り
3月20日・21日、「カムカムシアター」全4回公演を無事に終えることができました。
終了してから少し時間が経ってしまいましたが、あらためてこの公演についてご紹介させてください。
「カムカムシアター」は、普段は立ち入ることのできない劇場のバックステージを巡りながら、音楽やダンスに出会い、劇場空間そのものを体験していただく企画です。
総合演出を務めてくださったのは田畑真希さん。
この企画が成立したのは、田畑真希さんの演出があったからこそ。
いつも想像を軽やかに超えた景色を見せてくださる、素晴らしいアーティストです。
このブログでは、実際のツアールートに沿って振り返っていきます。
記録映像とあわせて、「カムカムシアター」を追体験していただければと思います。
<映像収録・編集:柳原 良平>
中ホールは、客席の形を自在に変えられることが大きな特徴です。
平土間にしたり、センターステージを組んだり、多様な使い方が可能です。

今回はその特徴を活かし、お客様には客席に乗ったまま奈落へ沈下する体験をしていただきました。
「え?客席のまま?」と思われた方は、ぜひ動画をご覧ください(笑)。
ゆっくりと沈下しはじめると、客席からは「えー!」「おおー!」という驚きの声。
中には「舞台が上がっているの?」と錯覚される方もいらっしゃいました。
視界が変わり、奈落の空間が現れると、そこにはミュージシャンとダンサーの姿。
劇場の奥に、もう一つの世界が立ち上がります。
こんな大胆な演出は、「カムカムシアター」ならではの挑戦です。


パフォーマンスを終えて客席が元の位置に戻ると、舞台上では「オーバード・ホール」のロゴをイメージしたオブジェを身につけたダンサーたちが踊っています。

この印象的なオブジェも、田畑真希さんによるもの。
“種”のようにも見えるそのかたちには、「劇場は、新しい出会いや表現の種をまいていく場所でありたい」という想いが込められています。
さて、いよいよ観客は2班に分かれ、バックステージへ出発!

搬入口、楽屋、音楽鑑賞室、照明・音響室、4階ギャラリー、すのこ(天井)―。
劇場のあらゆる場所で、それぞれに異なる音楽やダンス、演劇が立ち上がります。



回遊パートの音楽監修を担ったのはヤマダベンさん。
空間に応じた音楽が、場の空気を大きく変化させていきました。
劇場の機能や造形も、「表現」へと変わっていくような時間でした。
この企画が生まれた背景には、約20年前、彩の国さいたま芸術劇場で観た「ネザーランド・ダンス・シアター」日本公演の観劇体験があります。
当時のバックステージを巡る演出に心を動かされ、「いつかオーバード・ホールでも実現できないか」と思ったことが、この企画の出発点でした。
偶然、田畑真希さんも同作をご覧になっており、その体験を共有していたことから、実現に向けた検討が始まりました。
しかし、中ホールは構造としては非常にシンプルな劇場です。
劇場の機構や造形に頼るのではなく、その中でどのように記憶に残る回遊とするか…。
田畑真希さん、舞台技術スタッフと試行錯誤を重ね、パフォーマンスの力で空間を変化させていく現在の形にたどり着きました。
また、客席の沈下や回遊にあたっては、パフォーマーと観客の安全確保や舞台技術との調整、動線設計、管理職へのプレゼンなど、多くの検討と準備が必要でした。
出演者と観客が出会わないよう、タイミングやルートを組み立てる作業は、まさにパズルのようでもありました。
こうして、本企画はかたちになりました。
劇場のバックステージツアーは各地で行われていますが、今回のようにパフォーマンスと一体化させた回遊型の試みは、決して多くはないのではないかと思います。
回遊を終えた観客は、再びステージへと戻ります。
幕開けは「キャラバン」。
音が鳴り響いた瞬間、場の温度が一段跳ね上がります。
YASSYさんの指揮のもと、BLACK BOTTOM BRASS BAND、音楽団、ミュージシャンが音を響かせ、それに呼応するようにタバマ企画のダンサーと舞踊団の身体が躍動します。
舞台は一気に祝祭の空間へ。

なお、音楽団と舞踊団は公募によって集まったメンバーで構成されています。
自主練習を重ねながら、この舞台をつくり上げてくださいました。
その場にいる全員が同じリズムを共有し、舞台と客席の境界も、ゆっくりと溶けていくようでした。
やがて観客も、田畑さんの掛け声に導かれるように舞台へと引き込まれていきます。
出演者と観客がひとつの輪になり、ともに踊り、ともに歌う。
舞台と客席がひとつになる瞬間でした。
多幸感に満ちた、アートでつながる時間。
会場は言葉では言い尽くせない温かさに包まれ、観ていると毎回胸がいっぱいになりました。

舞台公演の裏側には、多くのキャストやスタッフの想い、そして日々の積み重ねがあります。
今回の「カムカムシアター」では、普段は見えないその裏側を、実際に体験して感じていただく時間になったのではないかと思います。
この体験が、観客の皆さまにとって記憶として残り、中ホールへの愛着へとつながっていったら嬉しく思います。
オーバード・ホールが、富山の皆さんにとって「自分たちの劇場」として、少しずつ育っていきますように。
最後に、この公演を支えてくださったアーティスト・出演者の皆さま、そして何よりご来場くださった観客の皆さまに、心から感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。