恋人から恋人へ、夫から妻へ、親から子へ…相手を思ってつづる手紙は、すべて恋文。
剣 幸さんが選んだ恋文に、名曲を重ねて贈る「恋文コンサート」は、2005年に富山で生まれて以来、全国各地で開催されてきました。
朗読と歌とピアノで紡ぐひとときは心に深い余韻を残し、観客を魅了し続けています。
富山では久々となる5月12日の開催に先駆け、剣さんの思いをうかがいました。
恋文コンサートは、どのように生まれたのですか?
それまで「うた会」という歌あり踊りありのコンサートを続けていて、その中に必ず朗読を取り入れていました。「うた会」をちょっとリニューアルして、朗読と歌のコラボレーションでコンサートができないかと思い、何を朗読しようか?と考えをめぐらせた結果、「手紙」に思い至りました。手紙を書くことがだんだん減っている世の中に、危機感すら覚えていました。相手の顔を思い浮かべながら、一言一言、一字一字に心をこめてつづる手紙を忘れてはいけない、そんな思いも込めて恋文コンサートが生まれました。
朗読する手紙は、どのように探されていますか?
いざ手紙を探し始めると、さまざまな時代、さまざまな人の、本当にたくさんの手紙が、書籍などにまとめられて残っていることがわかりました。父母への手紙、わが子への手紙、また戦時中に戦地から家族へ宛てた手紙など、感動的な手紙がまさに山のようにあって、最初は選ぶのが大変でした。初回から12年経つ中で詩や短歌などにも目を向けつつ、基本的には手紙を探し続けています。
日頃から本やテレビなどの情報にもアンテナを張って、偽りのない真実の言葉が書かれた手紙を探し、心の叫びを素直に伝えたいと思っています。
恋文コンサートを続ける中で、ご自身に何か変化や影響はありましたか?
手紙と歌の組み合わせや、コンサート全体の流れなど、すべて自分で考えるので、私が手紙や楽曲をどのようにとらえ、また今の世の中に何を感じているかなど、恋文コンサートには私の素の部分が出ています。舞台作品では与えられた役を演じますが、恋文コンサートは私自身のメッセージです。こうした創作は苦手だと思っていましたが、今は与えられた役を演じることと、自分の作品をつくることが刺激し合い、良い相乗効果が生まれています。手紙の言葉に込められた、言葉にならない思いまで感じるようになって、舞台で演じる役に対しても、いろいろな角度から見つめたり、芝居をとらえる感覚が少し変わりました。
会場のお客様の反応はいかがですか?
同じ空間で涙したり、笑ったりして、ともにさまざまな思いを感じてくださっていると、肌でわかります。私と同世代の方も、若い世代の方も、それぞれに何かを感じて会場がひとつになっていくような…。一人ひとりの心に確かに届いていると肌で感じられるのは、お客様と距離が近い会場ならではの感覚で、私にとって本当に楽しく大切なものです。
今回は富山公演限定のオリジナル企画が楽しみです。
富山の皆さんと何かコラボしたいと思い、オーバード・ホールHPに“つるぎkohibumi郵便局”を開局しました。皆さんからいただいた手紙のいくつかをご紹介する予定です。もうひとつ、県内在住の日本画家・広田郁世さんの影絵でステージを彩るという、これまでにない演出を取り入れます。影絵・朗読・歌が表現を高め合って、より感動的なコンサートになると思うので私自身すごく楽しみです。
今後の目標や夢などお聞かせください。
私は舞台人ですから、まずは舞台に立ち続けることが今後もいちばん大切。その上で新しい挑戦をしていきたい。初めての役や、今までにない作品に出会うと、立ち止まらず、もっと前へ進まなくては!と思います。「こんな役をさせてみよう」と思ってもらえる役者であり続けたいですね。「NHK短歌」の司会も挑戦のひとつです。短歌は全く素人でしたが、自分でも詠むようになり世界が変わりました。人は年齢を重ねると、挑戦がおっくうになりますよね(笑)。でも新しい一歩を踏み出すと、自分でもびっくりするような新しい自分が現れたりします
剣さんの中にも、まだ開かれていない扉がありますか?
そうですね、でも開かれていない扉は、私だけでなく皆さんの中にもきっとありますよ。たとえば、やりたいことを心の奥底にしまっている方も多いのでは?その扉を閉じたままではもったいない!いつまで生きられるかわからないですし(笑)、この先に何が待っているかもわからない。
最後に面白い人生だったと思いたいから、私は出会いやつながりを大事に、これからも自分の中の扉を開けて、まだ知らない自分に会いたいです。
最後に恋文コンサートを通して伝えたいことなど教えてください。
コンサート、演劇、映画など、すべては見てくださる方へのメッセージです。受け取ったお客様が、心をリフレッシュしたり、自分のこれからに生かしてくださるとうれしいです。それから…かつては何日も何カ月もかかって手紙が届いた時代がありました。今の世の中がいかに便利で幸せか、そしてそれは当たり前ではないことが伝わるとまたうれしいです。同時に、今はインターネット上で発した何げない言葉が、たちまちとんでもない一人歩きをする時代なので、根本に立ち返って、言葉の大切さに気づいてほしいと願っています。