asatte produce『ピエタ』小泉今日子×峯村リエ インタビュー

インタビュー

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オーバード・ホール情報誌MiteMite Vol.76に掲載の小泉今日子さんと峯村リエさんのインタビュー、フルバージョンを公開!本編には入りきらなかった、もう一人の主要キャスト・石田ひかりさんのエピソードも。

 

大島真寿美の小説を原作とした舞台『ピエタ』。演劇や映画のプロデュースも手がける小泉今日子が企画した作品である。当初は2020年に上演予定だったもののコロナ禍で中止となり、リーディング公演のみを開催。それから3年を経て、ようやく念願の舞台化が実現する。自身が惚れ込んだ作品をどう舞台に立ち上げるのか。同じく小泉が惚れ込むキャストのひとり峯村リエとともに、18世紀のヴェネツィアを舞台に描かれる女性たちの物語の魅力を語った。
※情報誌「Mite Mite」に加筆しています。

──2020年の公演が中止となり、リーディングを経て、ようやく舞台『ピエタ』が上演されます。まず今のお気持ちから聞かせてください。

小泉 この舞台の原作である大島真寿美さんの小説を2011年に読んで、舞台化したいと思って以来、「ピエタ」のことはずっと頭の中にありました。2015年に株式会社明後日を設立してから、何度かチャレンジしては上手くいかず、2020年に満を持してと思っていたらコロナ禍になってしまって。でも、何度ダメになってもネガティブな気持ちにはならなかったです。今回、2023年の夏にやっとお見せできることになりそうですが、むしろ、『ピエタ』という作品のほうがちゃんと時期を選んだのではないかと思うくらい、今がベストタイミングなんだろうなと思って準備しています。

峯村 私も、ネガティブな気持ちにはならずに、いつか絶対できると思っていました。リーディングだけでは終わらせないぞと。ただ、いざ本当にやるんだと思うと、この作品に対する小泉さんの強い思いをずっと受け止めてきただけに、それをちゃんと昇華しないといけないというプレッシャーもあって。身震いする思いです。

──小泉さんの作品への思いをお聞きできればと思いますが、小説のどこに魅力を感じられましたか。

小泉 この物語の主人公のエミーリアは孤児でピエタ慈善院で育っていて、ある楽譜探しに動き出したことをきっかけに、自分の中に閉じ込めていたものと対面しなければいけない状況になるんです。でも、いろいろな、みんなどこか誇り高い女性たちと出会って救われていく。それを読んだときに、私自身も救われたんです。当時は40代でしたが、仕事をしながらがむしゃらに生きてここまできたけれども、過去の自分が今の自分をちゃんと支えてくれているんだなとわかったというか。10代で頑張っていた自分、もっと幼い頃に見ていたきれいな空や花、そういう記憶がたくさんあって、私っていう人間はいるんだなと証明できた感じがあったんです。ということは、私以外にもそんなふうに感じる人がいるのではないかなと。立体化して伝えることを職業にしていますし、読書が苦手な人にもこの物語を伝えることができればなと思ったんです。

──峯村さんも原作を読まれた感想を教えていただければ。

峯村 すごく面白かったです。外国が舞台のお話は登場人物の名前を覚えるのが苦手なんですけど(笑)、「これは誰だっけ?」とページを遡ることを2回ほどやったあとは、もう、スーッとこの世界に連れて行ってもらって。ヴェネツィアの空気や風、洋服の衣擦れの音や部屋の温度や匂いまで、自分の中に湧き上がってきて、読み終わりたくない、この世界から帰りたくない、という気持ちになりました。だから、そんな世界に自分が登場人物としていられると思うとすごく嬉しくて。まだどの役を演じるのかわからない段階で読んだんですけど、ここに出てくる人だったら、どの役でもやらせていただきたいという思いになりました。

──峯村さんが演じられるのは、高級娼婦のクラウディア。ヴィヴァルディと交流があったという女性ですが、クラウディアを演じるとわかったときのお気持ちは?

峯村 クラウディアさんはすごく素敵な大人の女性なんです。部屋には沢山の蔵書が並んでいて、高級娼婦だけに教養もある。だから最初は、私にこんな素敵な役が務まるのかしらと思ったんですけど。でも、もう一度よく読んでみたら、クラウディアってやんちゃなところもあって、そこにまた惹かれたので。そこを手がかりにすれば、私も入っていけるなという気持ちになりました。

──一方、小泉さんが演じられるのはエミーリア。どう演じたいと思われていますか。

小泉 エミーリアは、自分の意志で何かを動かすというより、誰かのために動いていく受動的な人で、親に愛されなかったという思いもずっと持っていて、どこか耐えているようなイメージがあるんですよね。それでも、自分の中に誰にも言わないで大事にしていたものがあって、それを、クラウディアさんたちと出会っていく中でちゃんと認め口にすることができる。こういう役、私はこれまであまりもらったことがないんです。映像だと特に気の強い役が多いので(笑)、それこそ私にできるかしらという感じではあるんですけど。でも、だからこそ楽しみです。自分がどうできるのか、稽古をしながら作るのが。

──舞台に立ち上げるにあたっては、どんな工夫をされていますか。

小泉 原作を抜粋して読んだ朗読という形でも、この物語の素敵さが伝わった手応えはあったんです。なので、じゃあ、その骨組みに何を加えて何を落としてドラマとして作っていけばいいだろうというのを、脚本・演出のペヤンヌマキさんと話してきたんですけど。2023年に読むと、また入れたいところが出てくるんですね。例えば、クラウディアが語るヴェネツィアの貴族と政治についての嘆きなんて、コロナ禍以降いろいろな社会のひずみが露呈してきた今の時代も同じだなと思えたり。そんな話を二人でしながら、さらに脚本を練っています。それから、ヴェネツィアの街並みは、よほど本格的なセットを作らないと薄っぺらくなりそうなので(笑)、舞台美術や衣裳は抽象的にするつもりです。その中でヴェネツィアを想像させるには、水の音や鳥の鳴き声で水路が見えてくるとか、音が重要になると思っていて。音楽監督の向島ゆり子さんも、そういったSE(効果音)を自分で作ってみたいとおっしゃってくださっているので。ヴァイオリンとチェンバロの生演奏とともに、音も楽しみにしていただけたらと思いますね。

峯村 リーディングのときも、向島さんのヴァイオリンが入るところが掛け合いみたいに感じられてすごく楽しかったんです。語っている自分もヴァイオリンによって世界が見えてきて、その私のセリフに向島さんが音楽で返してくれて。また、小泉さんが、私たち役者の声が音になっていてすごくいいと言ってくださっているので。音楽、役者の声、SEの音と、今回のキーは音なんだなと思っています。ソプラノ歌手の方もいらっしゃいますし。

小泉 そうなんです。実在したオペラ歌手をモデルにしたジロー嬢という役で、橋本朗子さんに出演していただくので、歌ってもらうことになると思います。あと、ヴァイオリンを演奏してくださる会田桃子さんにも、アンナ・マリーア役としてセリフを言ってもらおうかなと思っているんです。

──小泉さんのプロデューサー、クリエイターとしての面は、峯村さんからご覧になってどんな印象がありますか。

峯村 やはり、自分が想像しているものの10倍100倍、いろいろなアイデアが出てくるので、ちょっと度肝を抜かれていますね。それはきっと、さっきおっしゃっていた、小さいときからいろんなものを見たり、いろんな人と出会ったりしてこられた経験から出てくるものだろうなと思うんですけど、私とは環境や育ち方、生き方がまったく違うので、出てくるものもすごく面白いんです。こういうことをそういう方面から出してくるんだ!と、いつも驚きます。そして、とにかくやってみようという、恐れがない感じがカッコいいです。勢いがあるし、そこに揺らがないものがあるなと思っていて。そういうところ、ちょっとエミーリアっぽいと思うので、私は、あ、この役は小泉さんだと思っていました。

小泉 そうだったんだ。がんばります(笑)。

──逆に、小泉さんからご覧になった、峯村さんの俳優としての魅力は?

小泉 この20年、リエさんが出ているお芝居を、全部ではないですけど観させていただいてきて、余計なことをしないのに面白い、伝わってくるっていうところが、すごく好きだったんです。そして、2020年の「asatte FORCE」という企画では、『わたしの茶の間 沢村貞子の言葉』で沢村貞子さんのエッセイも読んでいただいたんですけど、改めて、声の表現がすごく上手なんだなと感じて。特に『ピエタ』のクラウディアは、強くてカッコいい女性なんだけど、大きく張らなくても、声がスーッと降りていってそのまま地面を這うようにお客さんのもとに流れていくように見えたんです。わー素晴らしいなと思って、そう感じたのは、歌舞伎で坂東玉三郎さんを観たとき以来で。リエさんにもその声の素敵さがあるんですよね。

峯村 今のは、ぜひ書いてください(笑)。

小泉 あとは、リエさんもそうですけど、私はやっぱり朗らかで大らかな人が好きで、一緒に仕事するときはそれもすごく大きくて。リエさんは楽しんでお仕事しているのが見えるし、だからリエさんのもとには、先輩後輩性別関係なく人が集まってくるんだなと思います。そこは、まんまクラウディアです。

──もう一人、ヴェロニカという主要な登場人物がいます。エミーリアに楽譜探しを依頼する女性で、演じられるのは石田ひかりさん。石田さんについても教えてください。

峯村 これは身を乗り出して言いたいです。ヴェロニカは貴族なんですけど、石田さん自身がもう貴族なんです! 素敵なんです!

小泉 そう。振る舞いが本当に素敵で、慈悲深いところがあるというか。例えば、明後日プロデュースでは前回の『青空は後悔の証し』でもご一緒したんですけど、大阪公演のときに朝からひとりで電車で神戸まで行って、「みんなにどうしても食べてもらいたかったロールケーキがあるんです」と買ってきて振る舞ってくださったりして。それってヴェロニカが、飽きちゃったと言っては次々買ってもらったヴァイオリンをピエタに寄付するっていうのと同じで、ありがたがられようとは思っていないんですよね。クラウディアがヴェロニカを真の貴族と言うんですけど、まさに真の貴族だなと思います。

峯村 本当にそうですね。

小泉 『ピエタ』のリーディングのときも、その公演が全体の最終日だったので舞台装置のバラシに入ったんですけど、着替え終わった石田さんがマイ軍手をはめながら、「お手伝いします。何をしたらいいですか」と言ってステージに出て来られたんです。それで、ステージは危ないので楽屋の片付けをお願いしたら、すごく嬉しそうに、貼り紙をはがしたりゴミをまとめたりしてくださって。やることがなくなったら「これ以上いるとお邪魔になると思うので失礼しますね」とさっとお帰りになったんです。それも貴族の振る舞いですよね。

峯村 私はもう、石田ひかりさんの虜になりました(笑)。

小泉 そして、他の皆さんも、パオリーナ役の広岡由里子さん、ザネータ役の伊勢志摩さん、先ほどのジロー嬢役の橋本さん、ジーナ役の高野ゆらこさんと、この人にこの役をやってもらったら素敵だろうなという方たちばかり。

──女性だけのキャストで女性たちの物語を紡いでいくわけですね。

小泉 物語自体が、今の言葉で言えば“シスターフッド”的なお話なんですけど、きっと稽古場にもそれが生まれる気がします。

峯村 女性同士ってコミュニケーション能力が高いし(笑)、役者同士ってお互い尊敬する部分があるので、いい現場になるんじゃないかしらと楽しみです。

──今回は、オーバード・ホールに新しくできる中ホールの開館記念公演として来ていただきます。

小泉 新しいピカピカのホールでやらせていただけるのは光栄ですし、うれしいです。もしかしたら『ピエタ』は、そのピカピカのところにぴったりな演目かもしれないですね。本当に美しくて心温まるお話ですし。あの「四季」の作曲家のヴィヴァルディも登場するお話とあって、豊かな音楽もありますから。音楽は本当に楽しみにしていただきたいです。

峯村 私は開館記念公演って初めて経験するんです。富山に行くのも初めてなので、初めてづくしです!楽しみです!!

小泉 私は何度か舞台公演で行かせてもらっていますけど、ご飯がおいしいですよ。シロエビとか、ます寿司とか。

峯村 うれしい!東京にいる友だちも富山公演を観に行きたいと言っています。

小泉 旅行がてらにいいですよね。私も、地方公演は家から離れるのでやっぱりウキウキするんです。今回もウキウキ気分で、富山に伺いたいと思います!

聞き手・文 大内弓子(ライター)
ヘアメイク 石田あゆみ(小泉今日子)      
                       笹浦洋子(峯村リエ)
スタイリスト 宇都宮いく子(メイドレーンレビュー)
撮影 片山貴博

 

関連公演

主催公演 中ホール

日時 2023年8月19日(土)〜2023年8月20日(日)
8月19日(土)17:00開演(16:30開場)  8月20日(日)13:00開演(12:30開場)

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